[第2章-5] デジカメのホワイトバランス -JPEGとRAW-

ここまでは主にポジフィルムでの色温度事情について記述してきた。ポジフィルムでは光源の色温度や光源による色かぶりを予測した上で、それに応じたフィルターワークを撮影者自身が行う必要があった。しかし、デジカメでは『ホワイトバランス』という機能があり、光源に応じてカメラ側の色温度を自在に変化させることができる。この機能によりデジカメでは原則としては色補正を目的としたフィルターワークは必要ない。また『オートホワイトバランス』を使えば、デジカメ自身がその場所での色温度を撮影ごとに測定し、機種により多少の違いはあるが、一番明るい部分をその場所の光源として解釈して補正する。

ポジフィルムの場合はカラーメーターを使って撮影者自身が色温度を測定し、必要なフィルターワークを行っていた。デジカメではコンピューターがこの部分の仕事を肩代わりしてくれている。

しかし、デジカメでのJPEG撮影はポジフィルム以上に色温度に対してデリケートな部分もある。オートホワイトバランス(AWB)はあくまで機械による選択であり、撮影者の表現意思とは無関係に働く。ネガフィルムをオペレーターに無指示でプリント依頼した場合も同様である。露出や構図と同じように、色温度の選択も、あくまで撮影者が責任を負うべきであり、写真表現の一部なのである。 よほど色合いを重視しない記録的な撮影でない限りは、コンピューター任せの『オートホワイトバランス』は原則として使わないほうがよい。

デーライトを基本として使用し、状況に応じてマニュアルで決めるのが最良である。デジカメの機種にもよるが、夕焼けが白っぽく補正されてしまったりと、およそ写真としての面白みが半減してしまう結果になりやすい。

50年以上もの期間をかけて開発・改良されてきたポジフィルムと比べ、発展途上にあるのがデジカメである。ポジフィルムでは多少の色温度のズレは、フィルムの中でうまく吸収されて絵作りされるような部分もあったが、デジカメの場合ではホワイトバランスの選択ミスやズレは、そのまま致命的ミスとなる場合が多い。日中の屋外であっても晴天、曇天、日陰などのホワイトバランスモードは、場所を移動するごとに細かく設定を変えながら撮影した方が良い結果になる場合が多い。

特に、人物撮影で肌を写すような場合は、できる限り『マニュアルホワイトバランス』を使うべきだ。わずかでも色温度にズレがあると、健康な肌であっても不健康な青や緑っぽい肌に写ってしまう場合がある。

オートホワイトバランスが有効なのは、複数の種類の光源がある『ミックス光源』の場合などである。補正の判断が難しいミックス光源下などでは、人間以上に絶妙な補正をしてくれる場合もある。ホワイトバランスの設定は、各設定の利点を考えながら、時と場合によって柔軟に切り替えて撮影することが重要である。

デジタル一眼レフなどでは、JPEG形式だけでなくRAW形式で記録できる機種もある。JPEGが最終的な仕上がりまでをデジカメが機械的に処理しているのに対し、RAW形式はあくまでホワイトバランスなどの表現に関わる最終処理は人間に託す。RAWではネガフィルムで言うところのプリント作業を後からパソコン上で行うことができるため、色温度による致命的失敗を防ぐことができる。機種にもよるが、シャープネスやコントラストなども画質劣化を最小限にして調整することができる。一度しか撮れないような場面(厳密にはどのような場面でも一度しかないが)では、必要に応じてRAW形式も利用するべきである。