仕事やプライベートでカメラを使うようになって10数年が経った。最初に手にしたのは、ニコンの35mmフィルムカメラとタムロン製レンズの組み合わせ。次がキヤノン製35mmフィルムカメラ。その後にペンタックスやマミヤの中判フィルムカメラ。時代がデジタルになってからはキヤノン。仕事ではニコン、ソニー、パナソニック、オリンパスなど、ほとんどのメーカーの製品を扱ってきたきた。
特にレンズメーカーでの開発業務に携わった経験は、カメラやレンズの動作原理を理解する助けとなった。その後の撮影では、『カメラやレンズはどのような動作をしているのか』ということを意識するようにになった。動作原理を理解することは、カメラやレンズを使いこなすことと同じ意味である。この章では、撮影に必ず役立つであろう、設計者目線からの撮影技術について解説していく。
現在普及している主要なデジタル一眼レフカメラには、主に2つのオートフォーカス(AF)方式が搭載されている。フィルム時代の方式を継承した位相差AFと、デジカメ向けのコントラストAFだ。実撮影で2つのAFを使い分けることは非常に重要だが、なぜだか説明書や入門書では深く解説されていることは少ない。
位相差AFはフィルム時代から使われている、古典的かつ現役の主流なAF方式だ。初期設定では、ファインダーでAFを使った場合に使用される。この方式は、人間が左右の目を使って物の立体感や、“おおよその距離感”を把握しているのと同じような原理でピントを合わせている。
『3mくらい向こうにテーブルがある』とか『50cmくらい向こうにコップがある』などと人間が予想できるのは、人生経験による部分もあるが、基本的には目が二つあるからだ。一眼レフカメラでは、ミラーボックスの中に位相差AF用のセンサーを埋め込んで、この被写体までの距離を把握している。
カメラ経験が長い人でも誤解している場合が多いが、位相差AFの精度や速度は、ボディ側の特性で決まるわけではない。ボディとレンズは、パソコンの周辺機器などと同じように、常に互いに通信している。
カメラメーカーのマーケティングの都合で、誤解されるような商品紹介をしているからでもあるが、実際にはAFに関わる性能はレンズによる部分が大きい。位相差AFはレンズ側のソフトウェアに左右される。どんなに優秀なボディであっても、ソフトウェアの作りが悪い限りは、ピントを正確には合わせられない。
某レンズメーカーでは、既定のテスト回数のうち、一定範囲内のピント誤差であれば、製品として市場に出回る。それぞれのフォーカスポイントや、ボディの世代によりピントデータが違うため、膨大な量のテスト撮影が必要となる。当然、無限に開発期間があるわけではないので、完璧な状態にまで作り込まれることはない。被写体や被写体距離、焦点距離、絞りなどにもよるが、位相差AFを使って正確にピントが合うのは10%~20%くらいではないかと思われる。
なお、最近の一部機種では、ボディ側でレンズごとに位相差AFのピントデータ調節ができる。この機能は上記事情に対処するために用意されている。『ちゃんとやってるのにピントが合わない』のは、故障しているわけでもなければ、腕が悪いわけでもない。位相差AFでは一般的なことなので安心して欲しい。逆光など条件が悪くなると、さらにピント精度は下がる。
位相差AFのメリットとしては、一般的にコントラストAFよりも合焦スピードが速いことだ。スポーツ撮影などで、ピント精度よりもスピードを優先したい場合や、日中の屋外でファインダー撮影がしたい場合に向く。キヤノンの場合、ライブビュー使用時でも『クイックAF』を使うように設定することで、AF時に映像が一瞬途切れるものの位相差AFを使用することもできる。
レンズを分解するとわかるが、現代のレンズはマイクロチップなどの膨大な回路があって、まさにコンピュータだ。レンズというのは繊細な製品であり、現代の技術でも、大量に生産しているうちにレンズの厚みなどに細かな誤差が出てきてしまう。そのため、同じ型番のレンズであってもピント傾向が違ってくる。
そのため、レンズメーカーはどのような工夫をしているかというと、ソフトウェアによりピントデータを変えることによって、ハードウェア特性の違いを埋めるようにしている。1,000台~3,000台くらいの単位で、同じようなピント傾向で出来上がったレンズをグループ分けし、それぞれのグループごとにピントデータを作り込む。
この作り込みは、チャートなど一定の被写体をAFで大量に撮影し、一定の許容値になるように調整をしていく。ズームレンズの場合は、28-80mmのレンズであれば、28mm、35mm、50mm、80mmなどの代表的な焦点距離ごとに撮影を行う。中間の焦点距離は計算で割り出す。同じレンズであっても、ピントが合いやすい焦点距離もあれば、そうでない焦点距離があったりするのは、そんな開発側の都合があるためだ。
テクニットというほどではないが、上述のようなキリのよい焦点距離を使ったほうが、AFに限らず、あらゆる部分の性能が高い場合がある。
テスト撮影での被写体は、シマシマ模様などのチャート撮影が中心ではあるが、街並みの風景や、走行している電車などを撮影するフィールドテストも行う。何度も何度もテスト撮影しながら、ピントデータは作り込まれる。同じメーカーのボディであっても、世代、入門機、高級機などのシリーズごとに利用されるピントデータは別物である。そのため、レンズのROMには、複数のボディ向けのピントデータを収録している。
今時のレンズはAFを含め、あらゆる部分がソフトウェアで制御されているため、対象ボディのデータが含まれていない場合は正常に動作させることができない。
元々はコンパクトデジカメなどで使われてきた方式だが、今ではデジタル一眼レフカメラや、ミラーレスカメラで広く使われている注目株である。位相差AFのように専用のセンサーがあるわけではなく、実際の撮影画像のデータを利用してAFを行う。
一部のミラーレスカメラなどでは位相差AF並みに合焦が速い機種もあるが、平均的なデジタル一眼レフカメラでは基本的に合焦速度は遅い。
そのため、人物撮影やスポーツ撮影などでは向かない。反面、商品撮影や風景撮影など、じっくりと撮れる場合には非常に有用である。位相差AFと違って、フォーカスポイントの縛りがなく、好きな位置でピント合わせができる機種が多い。ライブビューの拡大機能と組み合わせると、入門機であっても楽に正確なピント合わせができる利点も特筆に値するだろう。
コントラストAFは位相差AFと違い、レンズ側のピントデータ作り込みに精度が左右されることは通常ない。専用センサーを埋め込む必要がないので、ボディを小型化することもできる。
原理として、レンズの製造上の細かなピント特性の違いにも左右されない。まだまだ速度面など発展途上の技術ではあるが、複数のメーカーで位相差AFと組み合わせたハイブリッド方式が開発されている。速度と精度を両立した新方式のAFとして、さらなる発展が期待できるだろう。