言葉遊びに思うかもしれないが、実際のところ、写真は『被写体そのもの』が記録されているわけではない。そんなカメラはSFの世界にしか存在しない。
では、写真には何が記録されているか? というと、何らかの光源から発せられた光が被写体に当たり、レンズに向けて『反射したきた光』である。もしくは、ステンドグラスや車のウィンカーなどのように『被写体自身から発せられた光』が記録されているケースである。
上記は人間の目の仕組みと同じだ。我々が普段、リンゴやボールペンを『見ている』ように思えても、実際にはリンゴやボールペンを人間は直接『見る』ことはできない。人間にそんな能力はない。真っ暗な所では人間は何も『見る』ことができないのが証拠である。
我々はリンゴやボールペンに当たって反射した光を見ている。そのことを世間では一般に『見る』と表現するのだが、ライティングに取り組む者は、まずこの理屈を知っておかなければならない。
よく普段スタジオで撮影しているプロカメラマンは、屋外で太陽光の下で撮影すると、全然思ったような写真が撮れなくて苦戦すると言う。反対に、普段は太陽光で撮影することの多いプロカメラマンは、いざ室内やスタジオなどで人工光を使って撮影しようとすると、やはり思ったような結果が出せない場合が多い。それらは同じカメラを使って撮影するとしても、光源が異なるということだけで、それぞれ別々のノウハウが必要であることを意味している。
太陽光は写真にとって理想的な光源の一つであるといえる。それは太陽光が巨大で明るさが強力で、地球から何万キロも離れた場所から照らしている光源だからである。時折現れては消える雲は、太陽光を柔らかくデュフューズし、使用料が何万円もする撮影スタジオと同等以上の理想的に光を照らしてくれる。
残念ながら、室内ではせいぜい数メートルから数十メートル程度しか被写体と光源を離すことはできないため、太陽光と全く同じ性質を持った光源を使用することはできない。しかし、工夫によって太陽の性質をシミュレートして撮影することは可能である。例えば『真夏の太陽下で撮影したような写真』を室内で撮影しようとした場合、被写体の真上付近から、生のストロボ光を被写体に直接当てるのである。そうすれば、被写体には上から下に強い影ができ、真夏の太陽下で撮影したような写真が撮れるのである。
写真は光源の大きさや明るさ、被写体からの距離などの違いによって、撮影結果に大きな違いをもたらす。ライティングは写真の中でも突き詰めていけば難易度は高く、誰でもが身に付けられるものではない。写真の中でも長年“プロの領域”とされてきたように思う。しかし、昨今では家庭でもネットオークション用写真の撮影や、一般企業でも営業マンや事務員など写真家でない人間が簡易的に商品撮影を行うような場面も増えているように思う。
現在、スタジオや室内での商品撮影によく使われている照明機材は大きく分けて3種類ある。
1つ目がストロボである。普通、プロ向けのレンタルスタジオでは大型ストロボが常備されている。発光部分と電源部であるジェネレーターが分かれているタイプと、ジェネレーターが発光部に内蔵されたモノブロックストロボがある。ストロボが次項以降で述べる他の光源と違うところは、カメラのシャッターを切った瞬間だけ、被写体が照らされるということである。
製品や出力設定により閃光時間に違いはあるが、カメラ側のシャッター速度が1/60秒だったとしても、ストロボの閃光時間がもっと短いため、微妙に動いているような被写体であっても、ストロボで撮影すれば静止しているように写る。モデル撮影など動きながら撮るような場合は、ストロボが威力を発揮するシーンだろう。
なお、クリップオンストロボはシステムの一部として開発されているため、例外的にカメラで測光できるが、大型ストロボはカメラ内臓の露出計では測光ができない。デジカメの場合はモニターやヒストグラム表示で大体の露出は把握できるが、正確な露出を割り出すためにはフラッシュメーターという機器を使う。
こうした外部ストロボ使用時のシャッター速度は、かつてはハード的な理由で1/60秒が一般的だったが、現在は1/125秒も使われる。瞬間光のため、基本的にはカメラ側のシャッター速度に関わらずブレは抑えられるが、プロの撮影現場でも普及しているコメット社のTWINKLEシリーズ旧製品を例に挙げると、発光ピークの半値幅で閃光時間はおよそ1/1200秒~1/240秒である。
シャッタースピードよりもストロボの閃光時間が短いため、シャッタースピードが1/200、1/125、1/60、1/30秒などと変化しても露出は同一だと考えがちだが、実際に試すと1/200より1/30の方が少し明るく写る。上記はあくまで半値幅であって、実際のストロボ閃光時間はもっと長いからだ。
シビアな撮影ではストロボ使用と言えども、手振れも起きるし、被写体ブレも置きうる。シャッタースピードによる露出変化もある。最近の製品は改善されてきているが、閃光時間が数万分の1秒などの完全に被写体を止めて撮れるストロボは特殊撮影用であって、一般的な大型ストロボはクリップオンストロボよりも、閃光時間が長いと知っておくとよいかも知れない。
写真用の電球である。かつては写真学生の必需品とも言われた。要はワット数の大きい電球なので、撮影中は非常に熱くなる。そのため、取り扱いは気をつけなくてはならないが、利点としては価格が写真用の照明機材としては最も安いことと(1.000円~)、基本的には家庭用コンセントに繋ぐだけで使えるので非常に手軽なことである。ストロボと違って、常に撮影時と全く同じ光が発光しているので、ライティングを肉眼で確認しながら進めることができ、ライティングの勉強には利用価値がある。
150w~500wくらいの商品がラインナップされている。ストロボに比べると光量が低く、トレーシングペーパーを通してデュフューズしたり、壁などにバウンスするとさらに光量が低くなる。手持ち撮影する場合は、それなりの覚悟が必要だろう。できれば、カメラは重量のある三脚に固定したほうがよい。
フィルムの場合は専用のタングステンフィルムを使う。デジカメやビデオカメラではマニュアルホワイトバランスか、電球マークのタングステンモードを使う。見た目が電球なので長持ちしそうなイメージだが、時間と共に劣化して色温度が安定しなくなる。特に、デーライトフィルム用にブルーに塗装されたタイプの寿命は、数十時間程度と短く儚い。
今どきのデジカメ用照明機材として頭角を現しているのが、蛍光灯やLEDなどの新種である。蛍光灯は、熱が少なく長寿命で、さらに低コストという利点がありながらも、フィルムとの相性が悪く、長らく写真には不向きの光源として無視されてきた。
しかし、デジカメであればフィルムのような色かぶりが発生しないため、デジカメの発達とともに注目されるようになった。個人やオンラインショップの業者向けの低価格な撮影キットなども多数販売されている。これらの照明機材で使っている電球は、基本的に家庭用の電球型蛍光灯やLEDであり、交換が容易である。
注意点としては、タングステン以上に光量が小さいため、カメラを三脚に固定した上で照明機材以外の光を無くさないと、高品質な写真は撮れない。
蛍光灯の光はディフューズしなくても初めから“柔らかい光”であるため、ストロボやタングステンをダイレクトに当てて撮ったようなシャープなライティングは基本的にできない。しかし、そのことは利点でもあり、簡単にある程度高品質な写真が撮れることでもある。LEDは製品によるが、蛍光灯よりはシャープである。ビデオ撮影用の光源としても使える定常光光源は、これからの時代の注目株かもしれない。
被写体を人工光で照らす場合、直接照らす方法もあれば、光源と被写体の間にトレーシングペーパー(トレペ)などを使ってディフューズする方法もある。直接照らすのが快晴時の太陽であれば、トレペを使った方は曇空のような影の柔らかな描写となる。女性のポートレートの撮影などでは、ディフューズするのが一般的で特別な表現意図がない限りは、直に当てることは少ないと言える。
ディフューズ以外には、光源を天井や壁などに向けて反射させた光を使う方法がよく用いられる。特に天井に向けて反射させる方法を天井バウンス(天バン)などと言う。これは1灯や2灯などの少ない光源でも、室内に広く光を照らすことができ、様々な場面で広く利用できる。2灯以上でライティングする場合でも、1灯目を天バンにして、2灯目をトレペ越しに照らしたりなど、バリエーションを工夫すると色々な表現ができる。
ライティングをする場合、光源の数が増えれば増えるほどコントロールが難しくなる。入門者やライティングを知らない人がライティングしようとすると、大抵は影の方向がぐちゃぐちゃで、光源の数だけ写り込みがあり、およそ写真として品質が低い場合がほとんどある。
太陽光の話を思い出してほしい。適切な場所に適切な光源があれば、例え1灯でも写真として高品質な写真はいくらでも撮ることができる。むしろ、中途半端に凝った多灯ライティングよりは、本当に必要な光だけを使ったほうが良い場合が多い。レンズの基本が50mmだとしたら、ライティングの基本は1灯ライティングにあると言えるだろう。
レフ版を駆使してもどうにもならない場合の最終手段に2灯目を使う・・・くらいの考え方で丁度良い。ライティングはカメラ同様、時代により変化していくものである。しかし、世の中の大抵の商品撮影やモデル撮影では、今も昔も、せいぜい2灯~3灯程度あれば十分事足りるということを知っておくと、余計な遠回りをしなくて済むだろう。